第二話:得体の知れない咳と、曖昧な診断
目次
咳だけが続く日々 #
咳だけが続いていた。
熱もなく、鼻も喉も痛くない。
風邪の気配はまったくないのに、咳だけが身体の奥から…いや気管支の表層部から、くすぐったいような感覚とともに勝手に湧いてくる。
そんな状態が三週間ほど続いた頃、さすがに不安になって、近所の少し大きめの病院を受診した。
熟練医師の曖昧な言葉 #
診てくれたのは、年季の入った熟練の医師だった。
「これは何かの病気だろう」と思っていた私は、原因を知りたくて仕方がなかった。
しかし医師の口から出てきたのは、
「敏感になってしまったんですかねぇ?」
という、こちらに問い返すような曖昧な言葉だけだった。
病名を知りたかったのに、
“こちらが答えを持っている前提”で聞かれても困る。
「気管って単なるパイプなんですがねぇ」
出口の見えないトンネルにいることが確定してしまったような、不気味な感覚だけが残った。
それでも続けた日常 #
それでも当時の私は三十代前半で、体力も気力もまだ十分にあった。
咳は辛かったが、生活はほぼ普通に続けていた。
大好きだった水泳もやめなかった。
泳ぐことはきっと身体にも良いのだろうと思って。
若さに助けられていた頃 #
今振り返ると、若さに助けられていた部分も大きかったのだと思う。
二十年も前の話だが、あの曖昧な診断と、続く咳の正体が分からないまま過ごした日々は、
今でもどこか薄暗い影のように記憶に残っている。